日本において生じた抗ウィルス薬sorivudineと5-fluorouracil(5-FU)系抗ガン剤の併用による致死的相互作用の発現機構には、5-FUの代謝律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)とsorivudineから腸内細菌によって生成された(E)-5-(2-bromovinyl)uracil(BVU)の活性代謝物が共有結合体を形成し、DPDを不可逆的に阻害する、mechanism-based inhibitionが関与することが明らかにされている。本研究では、in vitro試験データからin vivo薬物間相互作用を予測するために、ヒト肝サイトゾルおよびヒトrecombinant DPD(rhDPD)を用いて、5-FU代謝に対するBVUの阻害試験を行った。いずれの酵素を用いても、NADPH存在下でBVUと酵素をpreincubationした時間とBVU濃度に依存した阻害の増強が認められた。k_<inact>とK'appに表される阻害のkinetic parameterは、それぞれ2.39±0.13min^<-1>、48.6±11.8μM(ヒト肝サイトゾル)、0.574±0.121min^<-1>、2.20±0.57μM(rhDPD)であった。これらの値と文献から得られたsorivudineと5-FUのヒトにおける体内動態パラメータを生理学的速度論モデルに代入した結果、sorivudine(50mg1日3回、5日間)の服用により肝臓中のDPDはほぼ完全に失活し、それに伴って5-FUの血中濃度は単独投与時の5倍以上に上昇することが予測された。薬物代謝阻害にmechanism-based inhibitionが関与する場合には、ヒトに薬物が投与されたとき多大な危険を伴うことが推測される。今後、医薬品を開発する段階でこういったin vitro試験を実施し、in vivoの相互作用を予測することを是非提唱したい。
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