視交差上核を含む急性スライスを用い、受容体刺激薬の局所適用によるピリオド遺伝子の発現変化について、in situ hybridization法によって検討した。まず急性スライスを4%パラホルムアルデヒドで十分固定を行い、フリージングミクロトームを用いて、厚さ20umの脳スライスをもれなく作成し、スライドガラス上に貼り付ける。その後、適切なスライス処理を行い、適切な濃度のプローブを含むハイブリ溶液とインキュベーションすることにより、定量的な時計遺伝子発現の解析を急性スライスを用いた系においても確立することができた。まず、視交差上核を含む急性スライスを、動物飼育室の明期に作製する場合と、暗期に作製する場合でインキュベーションを行ない、一定時間後に脳スライスを還流固定し、時計遺伝子ピリオドの発現の日内リズム性について検討を行なったところ、明期にその発現が高く、暗期に低いという明瞭なリズム性が観察され、in vitroの急性スライス系でも時計遺伝子の自律的振動が持続することが明らかとなった。さらに主観的暗期におけるグルタミン酸やNMDAの投与が急性スライスのPer1遺伝子の発現を上昇させることを明らかにし、光型の同調にグルタミン酸-NMDA受容-Per遺伝子の発現上昇というカスケードが活性化されることを明らかにした。 さらに、このシグナル系がin vivoにおいても同様に活性化されるのか検討する目的で、ハムスターの視交差上核にNMDAをマイクロインジエクションした場合の発現の変化を調べたところ、主観的暗期(CT20)の投与によって、Per1およびPer2遺伝子の発現上昇が観察され、その度合いが、光によるものと同程度であった。以上より、カルシウムチャネル活性を有するNMDA受容体が時計遺伝子と密接な関係を有することを明らかにすることができた。
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