本研究では、薬物依存疾患者の治療上特に問題となる易再燃性とDBI生合成調節機構との関連性、および薬物依存の成立に関与するDBIおよび新規機能性蛋白質の脳内誘導の機序とその意義を解明することにより、従来より行われてきた動物実験モデルを用いての現象論的な薬物依存研究とは異なり、依存性薬物による精神依存および身体的依存の成立機序の本態を明らかにすることを目的として行われた。本年度では、先ずアルコール蒸気の連続吸入によりアルコール依存を成立させた動物に一定期間の休薬を施した後、再び同一薬物による投与を再開した場合の脳内DBI量の経時的変化について測定した。その結果、初回の薬物依存成立過程に伴うDBI量は、アルコール投与開始後3日目よりDBImRNA発現量の増加傾向が認められた。その後、吸入後5日目以降で明らかなDBImRNA発現量の増加が認められ、7日目以降ではその発現量は最大値を示した。一方、初回アルコール連続吸入による依存形成後に認められるDBImRNA発現量の増加が完全に消失する、アルコール吸入停止後3週間目よりアルコール吸入を再開したところ、吸入開始後24時間目ですでに投与前に比して有意なDBImRNA発現量の増加が観察され、48時間後ではその発現量は更に増強した。しかも、この時のDBImRNA発現量の増加の程度は、アルコール吸入の初回後に見られるDBImRNA発現量の最大発現量に一致するものであった。以上の成績から、アルコール依存成立後には、脳内においてDBImRNA発現量を早期に、かつ強力に誘発させる因子が形成されている可能性が考えられ、今後これらの解析を進めることにより、アルコール依存形成のみならず、その易再燃性の機序を解明する有用な知見が得られるものと考える。
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