ドパミンは重要な神経伝達物質であるが、同時に、腎や、心血管系でパラクリン物質として作用し、水・電解質代謝や、血行動態の調節に重要な役割を演じている。本研究では、ドパミンの受容体であるD2受容体遺伝子を除去したマウス(D2KOマウス)を用いて、D2受容体の腎電解質代謝、腎局所ドパミン産生、および血圧調節における役割につき検討した。 D2KOマウスの血圧は低食塩摂取時にはワイルドタイプ(WT)マウスと差がないが、食塩の慢性的負荷により、約10mmHgの血圧上昇をきたした。このD2KOマウスの血圧上昇は尿中のNa排泄の低下をともなっているので、D2KOの血圧上昇はNaの蓄積によるものであり、同マウスに高食塩摂取時のNaの排泄障害が認められると考えられた。 平成12年度はこのNa排泄障害の原因につき調べた。まず、D2受容体は腎尿細管に多く存在するので、D2KOマウス血圧や腎血流を変化させない少量のドパミンを投与して、Naの排泄反応をWTと比べた。Naの排泄はの反応は、軽度低下にとどまっていたが、一方、このとき、D2KOマウスでは腎におけるドパミンの産生量が明らかに低下していることがわかった。すなわち、D2受容体は腎におけるドパミンの産生に関与しており、ノックアウトマウスでは、ドパミンの産生が低下しているためにNaの排泄が低下していると考えられた。ドパミンの補充後にも、軽度のNa排泄障害が残るため、D2受容体は腎尿細管におけるNa排泄にも関与しており、D2受容体が存在しないことにより、Na排泄の効率が低下していると考えられた。 以上のように、今回の研究により、これまで、機能の不明であったD2受容体が腎におけるドパミン産生や、腎尿細管機能に関与しており、その機能の消失が、食塩感受性の血圧上昇にむすびついていることが明らかとなった。 結果は現在、Hypertension誌へ投稿中である。
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