研究概要 |
研究経過として,我々は血中α2macroglobulin(α2M)が著明に低下する症例(以下α2M欠乏症)を初めて報告したが,それら全ては骨転移を伴う前立腺癌であった.その機序として,α2Mと前立腺由来のプロテアーゼとのcomplexの形成による異化の亢進が関与することを明らかにした. そこで,健常者の前立腺(対照群)およびα2M欠乏症を伴う前立腺癌の組織をホモジュナイズして得られた抽出液をザイモグラフィーおよびリバースザイモグラフィーを用いて電気泳動した.その結果,前立腺組織由来のプロテアーゼであるprostate-specific antigen(PSA),urokinase-type plasminogen activator(uPA)およびmatrix metalloproteinase-2(MMP-2)は対照群に比べ明らかに著増した.他方,プロテアーゼインヒビターのα2Mは著減し,tissue-inhibitor of matrix metalloproteinase-1(TIMP-1)およびTIMP-2は軽度増加した.さらに,α2Mと各プロテアーゼの結合性を5〜15%SDS-PAGE後Western-blottingを用いて検討すると,PSAとの結合性が最も高くα2Mの異化にPSAが最も関与する可能性が考えられた.なお,ヒト前立腺癌培養細胞PC3を用いたin vitro invasion assayにより,α2M,MMP阻害剤(CGS27023A,KB-R7785)などのプロテアーゼインヒビターにおける抗転移作用を検討した結果,α2Mはdose-dependentに癌細胞の基底膜浸潤能を抑制した. 以上より,癌細胞の浸潤・転移はPSA,uPA,MMP-2などのプロテアーゼとα2Mなどのプロテアーゼインヒビターとの量的不均衡が一つの原因と考えられ,α2Mは癌転移の抑制に関与することが考えられた.
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