本研究の目的は、看護情報の電子的流通実現のための基礎データを得るために、看護の現場で使用されている業務表現のバリエーションを調査・分析することである。 平成11年度に、大阪厚生年金病院看護部の協力を得て、同病院血液透析室で携帯型ボイスレコーダーを使用した音声記録での看護業務タイムスタディを行った。ボイスレコーダーは録音時刻が秒単位まで記録できる手のひらサイズのものを使用した。音声記録は対象看護婦自身が行った。まず音声録音の訓練がない状態で行ったプレテストの結果、とても現在の医療現場ではコンピュータでの音声認識・意味認識ができるレベルにはないことが確かめられた。また、以前に同病院内科・外科病棟で行った自計筆記式のタイムスタディと比較して、音声での業務表現のバリエーションはもっと多くなると見込まれた。そこで、本番のタイムスタディでは、看護シフトの終了時に、録音した看護婦自らが録音した音声を再生し、書き言葉にして紙に筆記し、それを表計算ソフトに入力する手法をとった。延べ2日間、延べ19人の看護婦に対するタイムスタディ本調査の結果、1業務1レコードとして、2287件の業務データを収集した。 平成12年度に、以前のタイムスタディデータと合わせて分析を行った。その結果、例えば、同じ内容の点滴業務でも、「点滴交換」「点滴更新」「点滴取替え」などのように看護婦によって表現が異なり、また表現が現れる頻度も業務内容等によって相違があることを定量的に示すことができた。本研究では、ある一総合病院の病棟を研究対象としたが、同一病棟内であっても業務表現は一般にバリエーションに富んでおり、かつ、ある出現頻度が存在することが明確となった。これらの内容に関してAPAMI-MIC2000(香港・平成12年9月)と医療情報学連合大会(横浜・第19回平成11年11月および浜松・第20回平成12年11月)で報告した。
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