高齢者や糖尿病患者は感染を受けやすく、易感染宿主であると言われている。易感染状態は、一般に、末消血白血球の数の減少により判断されているが、個々の細胞の有する殺菌能力の低下が易感染状態の本質であると考えられる。今回、高齢者の易感染性の原因を、好中球の殺菌能力、つまり、好中球の産生する殺菌物質である活性酸素や活性窒素の産生能力と、好中球内の緑膿菌殺菌能から追求した。 70歳以上の整形外科的疾患を持つ非感染状態の高齢者を対象とし、ヘパリン末梢血から、デキストラン法により赤血球を沈降させ、上清分画の細胞からパーコール法により単核球及び赤血球を除去し、好中球を分画精製した。好中球の産生する活性酸素(過酸化水素及びスーパーオキサイド)、活性窒素(ペルオキシナイトライト)量は、スコポレチンによる蛍光発光法及びルミーノール依存性化学発光法(NO消去剤の存在下、非存在下)により測定した。好中球の緑膿菌殺菌能は、好中球に生菌を食菌させ、遠心洗浄後、ゲンタマイシンを含む培養液中におき、経時的に細胞を破壊して細胞内に生残した生菌数より測定した。コントロールに20歳台の健康成人を用いた。その結果、(1)末梢血中の白血球数は、高齢者と健康成人の間に有意な差は認められなかった。(2)個々の好中球の産生する過酸化水素及びスーパーオキサイドの量について両群を比較したところ、高齢者の産生量は、健康成人の約3分の1であり、有意に低下していた。(3)緑膿菌は高齢者の好中球内で殺されることなく増殖するが、健康成人のそれでは増殖がみられなかった。 これらのことから、高齢者における易感染性の原因は、日和見感染に対する第一次的防御の役割を担う好中球の殺菌能力の低下にあることが示唆された。
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