研究概要 |
易感染宿主における感染症の中で発生頻度が高い,下気道感染症や肺炎の予防には,口腔内や上気道における感染を予防する口腔ケア法の開発が必要である。平成11年度は,易感染宿主の全身性免疫能低下に対応して口腔局所の免疫能-生体防御能の変動の有無を検討するために,健常者を対照にして易感染宿主の口腔含嗽液に含まれる局所産生性生体防御成分(分泌型-IgA)レベルを酵素関連免疫測定法(ELISA)で測定し,分析した。平成11年8月2日〜21日,T大学医学部附属病院に入院し,全身性免疫機能低下が予測される呼吸器疾患患者を対象に,昼食摂取約2時間後に1回20mlの滅菌蒸留水で,約5秒間ブクブクによる含嗽を行い,含嗽液中の分泌型-IgAを測定し,健常志願者20名の含嗽液と比較した。その結果,1.含嗽液採取時間や採取方法等は対象への負担が少ない継続可能な方法である,2.分泌型-IgAの測定にはELISAでの測定が有効であることがわかった。そこで平成12年度は,対象を呼吸器疾患のうち悪性疾患患者・肺癌に限定し,治療による経時的変化を知るため,化学療法(抗癌剤投与)前後に含嗽液を採取して分泌型-IgAを測定し,調査対象と同年齢層の健常者の含嗽液を同じ方法で採取して比較した。その結果,1.肺癌患者4名について,含嗽液中分泌型-IgAの含有量の経時的経過は,個人差があるものの治療前に比して治療開始後2週間前後には低下し,治療4週間後・次回治療前には治療前程度に増加し,そして治療回数を重ねるに伴い減少傾向を示した,2.肺癌患者24名と同年齢層健常者28名の比較では,含嗽液中分泌型-IgAの含有量は,肺癌患者群が健常者群に比して高い値を示す者が多く,ばらつきも大きかった。 以上のことから今後は,1.同対象について採取時間による相違について比較する,2.化学療法を受ける対象についての症例数を増やす等継続して追及していく。さらに,易感染宿主における全身性免疫能の低下に対応した口腔内感染の発生の有無について調査し,感染予防の観点から口腔ケア法の開発に取り組んでいく。
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