本年度は、化学療法を受けるがん患者が希望を維持するためにとっている対人関係に焦点を当てて、対人関係の構造と意味を民族詩的研究方法を用いて、帰納的に導き出すことを目的に調査をおこなった。 首都圏内の大学病院に入院して3ヶ月以上経過している血液がん患者7名にインタビューと参加観察法を用いた調査を実施した。調査開始初期の対象3例においては、インタビュー開始から退院(1ヶ月〜3ヶ月)まで、一回1時間程度のインタビューを一人につき8回〜11回、継続的に繰り返し、対象者との関係を築きながら、インタビューと分析の内容を深めていった。その結果、対象患者は、「療養生活のリズムや、家族や医療者及び周りの患者との関係、治療経過などにおいては、周囲の状況に合わせ、とけ込み、身を任せようとしていながら、その一方で生き延びるということに関しては、独自であることを信じ、主張しようとしている」というパターンが導き出された。4例目からは、このパターンを基にインタビューの焦点を絞り、一人3回程度のインタビューを対象を代えながら、継続して実施している。対象者達は、入院治療が長期化する中で、具体的な目標を変更する、あるいは、捨てるという方法で状況に適応していること、しかし、生き延びたい、治りたいという希望は失わないでいることに関するさまざまなエピソードを報告している。現在の研究状況は、これらのエピソードから核となるカテゴリーを探し出している段階である。 本年度のデータから、核となるカテゴリーが明らかになり、カテゴリー間の関係が導き出された段階で、来年度は、調査の場を首都圏から地方に移し、医療の場や療養の場の異なる患者を対象に調査をおこなう予定である。そして、今年度の結果と比較分析をおこなうことで、本研究結果に認められる文化的特徴の探求を深めていく。
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