本研究の目的は、日本人の対人関係の特徴をふまえた、がん患者とその家族への継続的なケアのあり方に対する理論的基盤を構築するために、彼らが入院および入院治療終了後に医療の場や療養の場でおこなう、対人関係の構造とその意味を質的アプローチによって導き出すことにある。まず、がんという病名が患者およびその家族の対人関係に与える影響をがん患者の遺族へのアンケート調査によって明らかにし、オスロで発表した。病名を「腫瘍」と伝えられた患者の遺族が、「がん」「その他」の病名として伝えた患者の遺族に比べて病名告知に対する納得度が有意に低く、病名に対する患者の認識は家族に強く影響すしていた。次に、自分が造血器のがんであることを知り、常に死を身近に感じながら化学療法を受けてきた患者へ面接調査を行い、彼らの希望の構造を帰納的に明らかにした。彼らは「治療を終えないとどうにもならない」状況のなかで、「生きたい」という希望を持ち続けることができていた。「生きたい」いう希望には「生きて何かを実行したい」「生き残りたい」「自分を見つけたい」などの意味があり、前者2つ(特に、生き残りたい)には家族の存在が強く影響していたが、「自分を見つけたい」ということに関しては、他者が関与することを拒む現状があった。看護婦には「日常性」を与えてくれる働きかけを求めていた。この調査の一部は日本看護科学会学術集会で発表した。また、看護をする側の状況を把握するために、終末期患者の家族に焦点を当てて、看護婦の臨床判断に関する聞き取り調査を行い、日本がん看護学会で発表した。 患者の病名や病状に対する認識は、患者-家族間の対人関係に強い影響をもたらし、また、患者が求める対人関係のあり方は、患者が必要とする援助の内容により異なっていた。これらのことを踏まえた看護援助の重要性が示唆された。
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