目的:低酸素環境下において腹式呼吸が体液調節機構に対してどのような影響を及ぼすのかは明らかにされておらず、本研究は低酸素環境下における安静時及び運動時の腹式呼吸の生理的効果を検討した。方法安静時実験:被検者は健常者5名とし12%酸素濃度ガス吸入下において実験は行なわれた。呼吸法は通常呼吸、口すぼめ呼吸、positive end expiratory pressure弁を呼吸マスクに取り付けた状態でのPEEP呼吸の3種類をそれぞれ10分間行なった。運動負荷実験:被検者は健常者6名とした。12%酸素濃度ガス吸入下においてPEEP呼吸運動実験と通常呼吸運動実験の2試行行なった。運動強度は最大酸素摂取量の40%、50%、60%とし、運動時間は各強度5分間、計15分間とした。結果1:安静時の腹式呼吸効果12%酸素濃度吸入下の安静時、酸素飽和度は時間経過とともに低下したが、通常呼吸と比較して口すぼめ呼吸、PEEP呼吸は酸素飽和度の低下が軽減された。心拍数、換気量は常圧環境下と比較して低酸素吸入時に上昇したが呼吸法による差異は認められなかった。1回換気量は通常呼吸と比較して口すぼめ呼吸、PEEP呼吸が高い傾向を示し、呼吸数は口すぼめ呼吸、PEEP呼吸が低い傾向を示した。吸気時間、呼気時間、呼吸時間は通常呼吸と比較して口すぼめ呼吸、PEEP呼吸が長い傾向にあった。結果2:運動時の腹式呼吸効果12%酸素濃度ガス吸入下の運動時、酸素飽和度は時間経過とともに低下したが、通常呼吸、PEEP呼吸に差異は認められなかった。体液調節ホルモンのレニン活性、アルドステロン、ANPは運動負荷により上昇したが、PEEP呼吸の影響を受けなかった。アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンにもPEEP呼吸の影響はみられなかった。体液調節ホルモン、ストレスホルモンがPEEP呼吸の影響を受けなかったことから腹式呼吸による急性高山病発症抑制効果の機序に体液調節ホルモンが影響を及ぼしている可能性は低いと示唆された。また低酸素環境下における腹式呼吸の酸素飽和度に対する効果は安静時に認められたが、運動時には消失した。低酸素環境下における腹式呼吸の呼吸循環系に対する効果を明確にするには更なる研究が必要と思われた。
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