自然発症高血圧ラット(SHR)に10週間の自発運動を行わせた。トレーニング期間終了後、採血し、心臓、大動脈および足底筋等を摘出した。 トレーニング期間終了時のトレーニング群の血圧は189±19mmHgで、コントロール群の206±15mmHgよりも有意に低かった。これまで運動トレーニングはSHRの血圧上昇を抑制するという報告と、抑制しないという報告がされているが、我々の結果は前者を支持し、10週間の運動トレーニングがSHRの血圧上昇を抑制することを示唆している。 一酸化窒素(NO)の代謝産物である血漿中の硝酸・亜硝酸イオン濃度は、両群間に有意な差は観られなかった。しかし、トレーニング群内においては、硝酸・亜硝酸イオン濃度が高いと血圧が低いという有意な相関関係が観察された(r=-0.63)。また、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性は、心室においてトレーニング群がコントロール群よりも有意に高い活性を示し、大動脈においても同様に、コントロール群よりも有意に高い活性がトレーニング群において観察された。NOはその反応経路においてスーパーオキシドラジカル(O_2^-)と強い反応性があるため、O_2^-はNOの血管拡張作用を妨げることが知られている。従って、トレーニング群は10週間の自発走トレーニングによって、血管のSOD活性を上昇させてO_2^-を適正濃度に下げ、NOの効果的な血管拡張作用を可能にすることにより、安静時血圧の上昇を抑制している可能性が示唆された。 今後、硝酸・亜硝酸と同様NO代謝産物であるニトロソチオールの動態を把握する必要があると思われる。また、O_2^-の合成酵素である大動脈中のキサンチンオキシターゼの活性と合成量についても検討してゆく。
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