最近の研究では、造血前駆細胞(幹細胞)が内皮細胞へと形質変換し、虚血損傷筋における血管の再構築に寄与するとの報告がされており、このことは血管の再構築や血管新生に造血システムが寄与する可能性を示唆するものである。また、加齢に伴い血管の再構築や毛細血管新生能が低下することも知られている。この知見をもとに「加齢による血管再構築能に造血前駆細胞由来の血管内皮細胞の減少が寄与する」と仮説した。この仮説をヒトを用いた実験系で検証する第一段階として、中高齢者と若年成人との末梢血中造血幹細胞数を比較した。仮説が妥当であれば、中高齢者の方が末梢血中造血幹細胞数が少ないはずである。 6名の中高齢者(40歳〜68歳)との6名の若年成人(20歳〜30歳)の起床時の末梢血中造血幹細胞数を比較した。末梢血中造血幹細胞数は中高齢者の方が有意に小さい値を示した。さらに、年齢と末梢血中造血幹細胞数との間に有意な負の相関が観察された。また、一過性の運動(40分間、80%Vo2max)によって末梢血中造血幹細胞数は増加することを昨年の報告書で報告した。中高齢者と若年性人で一過性の運動による末梢血中造血幹細胞数の増加の程度を比較したところその増加量には有意差は見られなかった。 以上の結果は、加齢により、骨髄における造血が低下したか、骨髄から末梢血中に造血幹細胞が放出されにくくなったことを示唆している。加齢によって末梢血中の造血幹細胞数が減少することで、様々な要因による血管壁内皮細胞の損傷からの修復能が低下する可能性が考えられる。
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