本年度の研究は、(1)戦前・戦時期の愛林運動の実態の解明(大日本山林会の活動を中心として)、(2)愛林運動の思想的背景の解明、の二点に関しておこなった。 前者に関しては大日本山林会の機関誌「山林」のバックナンバーを入手し、1930〜1940年代の同誌に掲載された愛林連動関連の記事および論文の分析をおこなった。その結果、戦前・戦時期の日本における全国的な緑化運動としては、1928年の「御大典記念緑化運動」、1934年から始まる「愛林運動」、そして1942年の戦時体制下で始められた「挙国造林運動」の三つの運動があり、緑化運動がそれぞれの時代背景と一定の連関をもつことが明らかとなった。その中でも「愛林運動」が当時の日本において自然保護とナショナリズムを結びつける役割を有していた点は、戦後の国土緑化運動を考える上でも要だと思われる。なお本研究の成果は2000年8月に韓国の大邱市で開催されるThe 2nd lnternational Critical Geography Conference で報告する予定である。 後者に関しては、愛林運動が行われた当時の日本における風土論や環境論をめぐる言説について分析をおこなうことで、前・戦時期の愛林運動・自然保護の思想的背景を探ることを試みた。分析の対象としたのは風土論の代表的論者である和辻哲郎をはじめ、寺田寅彦、高瀬重雄、藤原咲平、脇水鉄五郎、辻村太郎らのテクストである。分析の結果、彼らのテクストに共通して見られたことは、日本の自然を日本の国民文化との関連で語る語り口である。そこでは自然が暗黙の内に国民化の構成要素として位置づけられていることが明らかとなった。このような戦前・戦時期日本の自然観.環境観が愛林思想の形成にどのような影響を与えたのかを探ることが次年度の課題の一つである。なお、この研究の成果は1999年8月に阪市立大学で開催された国際会議 'osakaW orkshop for Frontiers of Asian Geographies'において発表した。
|