本研究ではまず、1980年代と1990年代の空中写真を比較して、京都市の歴史的中心市街地の都市景観の変容について調査した。都心部では伝統的な町家が多数消失し、その後には広大な空閑地が出現するとともに、共同住宅が建設される一方、インナーシティのなかでも西陣地区においては、歴史的な町並みが維持されているところがあった。 次に、物的変化によって生じた人口の変化について、昭和55年から平成7年までの国勢調査の小地域別集計結果を時系列に比較した結果、都心の一部地域で人口回帰が認められた。この人口回帰が確認された地区において、住宅地図等より従前の土地利用の把握等により、その要因について考察した結果、従来伝統的な町家の集中していたところに建設された共同住宅への来住者の増加によることが明らかになった。 京都市の持続可能な都市発展にとっては、歴史的な町並みの維持・継承が重要であることを考慮し、その状況について現地調査を行った。都心部では、伝統的な町家を再利用した飲食店などの事例がみられるとともに、周辺の歴史的な町並みに配慮した町家型集合住宅も建設されており、このような建物を志向した住民の来住もみられた。西陣地区では、空き家の情報を提供するなど、積極的に伝統的な町家を維持・継承することにつとめる活動組織があり、これによる芸術家などの来住があった。これらの事例は、海外諸国で報告されているジェントリフィケーションの初期の状況を示しており、その要因や影響については平成12年度も調査研究を継続して実施する。
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