研究概要 |
本年度は,石川県輪島市および富山県井波町を対象に現地調査を中心に実施した。輪島における研究成果は「駒澤地理」36号にて発表予定である。本年度の調査で以下の諸点が明らかになった。 インキュベータ地域を含む輪島市街地においては,さまざまな社会組織が重層的に形成されている。それぞれの組織は,いずれも余暇的機能を内包している。組織を枠組みとした活動が,住民の日常生活に活力を与えている。輪島漆器業に携わる経営者や職人は,人材の点からも経済的にも各組織の中核をになう。このことは4月の曳山祭や8月のキリコ祭の運営に端的に現れる。また,輪島では年齢階梯が組織のなかで重要な役割を果たし,地縁組織や職縁組織においても構成員は年齢階梯によって小グループを形成している。年齢階梯ごとのまとまりはきわめて強固で,特定の年齢集団が組織全体を実質的に掌握している。ことに漆器業を母体とする職縁組織「弟子兄弟」の場合にこの傾向が著しい。 井波木彫産業においては,中心商店街でもある瑞泉寺門前町の景観形成を中心に調査を行った。瑞泉寺門前町は砺波平野の中心地として商家が連担し,木彫業者が立地する余地はなかった。しかし,中心地機能の低下にともない,木彫業者が工房を設立した。現在では,門前町における商家の約40%は木彫工房である。その結果,瑞泉寺の大伽藍,商家の町並み,および井波木彫の3者が組み合わせられ,新たに「伝統的」な景観が形成された。井波の木彫職人は,独立後門前町に工房を持つことを理想としている。すなわち井波では市街地周辺で独立し,後に中心地に移動する傾向があると考えられる。 井波については,8月の国際地理学会議で発表予定である。
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