本研究は繊維に対する染料の吸着状態を明らかにすることを目的として、繊維と同じ親水基を持つ両親媒性物質のラングミュア膜を作製し、水中に染料分子を種々の濃度で混入し、ラングミュア膜の構造変化を観測する、というものである。分子レベルでの吸着状態を明らかにすることが目的であるが、染料分子は比較的大きな分子であるため、基礎的な知見を得るためにまず小さな分子を用いて実験を行った。分子としては亜鉛イオンを使用し、脂肪酸であるステアリン酸と12-ヒドロキシステアリン酸のラングミュア膜との相互作用を、主に赤外外部反射法を用いて調べた。現在のところ得られている結果は次のようなものである。 1.亜鉛イオンを水中に入れたステアリン酸のラングミュア膜において赤外外部反射スペクトルを測定したところ、膜の表面積の変化に対してステアリン酸のメチレンの伸縮振動バンドは、波数、吸光度ともに変化は見られなかった。このことから炭化水素鎖の配向とコンフォメーションは表面積に依存しないことが明らかとなった。これは亜鉛を入れなかった場合とは異なる結果であり、ステアリン酸と亜鉛との間の強い相互作用によるものである。 2.表面積の変化に対し、カルボキシレートの伸縮振動バンドの波数に変化が見られた。このことから、カルボキシレートの構造は表面積に依存することが明らかとなった。 3.12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛とステアリン酸亜鉛のラングミュア膜とでは、メチレンの伸縮振動バンドの吸光度に大きな差が見られた.炭化水素鎖軸の、膜面の法線方向に対する配向の違いによるものと考えられる。 次は実際に使われている染料を用いて実験を行い、今回得られた知見を元にして解析を行う予定である。
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