日常災害に関わる生活行動および日常災害の被災経験に関する調査を続行した。まず、医療機関の協力を得て死体検案書や警察による災害発生現場調書等を閲覧し、日常災害の背景と成り得る因子の抽出、分析を続けた。家族構成の変化や地域社会のあり方は日常災害と関わりが大きいため、高齢化や家族構成の変化等の社会変化に伴って深刻化している災害の詳細を明らかにすることを研究目的とした。前年度はそのひとつとして入浴中の災害に着目して、入浴中の災害に関わる生活行動や浴室での被災経験および浴室環境の実態等について詳細な調査を実施し、日常災害の社会的、生理的、物理的背景を表出させることができた。本年度はこれを踏まえて、さらに、高齢化や家族構成の変化等の社会変化に伴って深刻化している災害の中から、便所での身体異常に伴う災害に着目して実態調査を行った。その結果、便所での災害は、男性の場合は40〜64歳の中高年層の占める割合が女性の場合よりも大きく、便所での身体異常は心疾患や脳血管障害に伴うものが多く、死亡推定時刻や通報時刻、救出までの状況等を調べると、便所での身体異常の発生から、救出あるいは発見までかなりの時間を要している事例が多く見られた。家族構成や生活状況によってはとくに便所での身体異常の発見が難しく、異常状態発生から発見までの過程に差異が見られた。さらに、便所特有の空間特性、すなわち、日常生活の中で占める便所空間の重み、閉鎖性、便所での行為(排尿、排便等)と人体生理変化の関連等から便所での身体異常発生と救出、死亡の関係が明らかとなり、便所行動と便所の空間や機能のあり方を検討する基礎的資料を得ることができた。
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