煮干しは、古くから用いられている風味調味料である。近年、インスタント風味調味料が開発、商品化され、その利用が増加し、家庭でのかつおや昆布からのだし汁調製は減少してきている。このような状況の中で、煮干しは、比較的簡便にだし汁調製ができることに加えて、カルシウム供給源になることもあって、家庭では、現在もなお、広く用いられている。しかし、一方で、煮干しはその生臭さの故に好まれないことがある。この煮干しの生臭みの要因は、煮干しに含まれる脂質の酸化生成物であると考えられている。煮干し、特にその脂質の性状は、生いわしからの加工工程中に大きな変化を受け、煮干しだし汁の風味に大きく影響していると予想された。 本研究では、煮干しだし汁の風味に及ぼす煮干し脂質の酸化の影響を調べた。数種類の市販煮干しから脂質を抽出し、その性状を調べた結果、脂質含量は約4.3%と四訂食品成分表に示された値より高く、頭部には体部の1.3〜2.2倍多い脂質が含まれていた。また、製品による程度の差はあったが、カルボニル価、チオバルビツール酸反応性物質値はいずれも高い値を示し、脂質酸化がかなり進んでいることが認められた。さらに、高速液体クロマトグラフィーにより、これら煮干しの脂肪酸組成を分析したところ、脂質の酸化が進むことによって、脂肪酸組成は変化し、魚に多く含まれているIPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸が減少していることが明らかになった。一方、煮干しだし汁の風味と脂質の酸化程度には相関が見られ、酸化が進んでいると考えられる煮干しからとっただし汁ほど生臭みが強く、味も好まれないという結果を得た。 本研究により、煮干しのだし汁の生臭みと脂質との関係が明らかになった。今後さらに研究を進めることにより、生臭みの生成機構を解明し、より嗜好性の高い煮干しだし汁調製を検討していこうと考えている。
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