脂肪酸栄養が糖尿病におけるインスリン抵抗性に与える影響を検討する目的で、今年度は岡山県内のSクリニックに通院中の糖尿病症例43例を対象に栄養評価と血漿と血球膜の脂肪酸分析を行った。そして糖尿病における脂質栄養異常の実態を把握しその改善方法を考察した。 糖尿病例の身体計測値から見た栄養状態は男女ともにおよそ40%の症例で肥満状態であり、骨格筋量の指標となる上腕筋囲では明らかな減少を認めた。血糖コントロールが良好な症例は33%で、血清総コレステロール、TGの高値が認められた。栄養素および脂肪酸摂取状況は適正範囲内にあったが、砂糖類および油脂類の摂取が少ない傾向であった。一方、赤血球膜および血漿リン脂質の脂肪酸組成を検討したところ、糖尿病例において飽和脂肪酸比率の増加とアラキドン酸、リノール酸比率の有意の減少を示した。これらのn-6系脂肪酸摂取量と血清遊離脂肪酸濃度の間に負の相関が認められ、血漿リン脂質のn-6系脂肪酸含有率やリンパ球・単球膜のアラキドン酸/ジホモ-γ-リノレン酸比と正相関した。糖尿病患者の脂質栄養状況はP/S比が低下傾向を示したが、適度の植物性油脂の摂取により食事のP/S比を保つことが脂質栄養異常を改善するうえで望ましいと推測された。 細胞膜の多価不飽和脂肪酸、特にアラキドン酸の減少はインスリン抵抗性との関連が強く、遊離脂肪酸がインスリン抵抗性を高めるとの報告がある。血清遊離脂肪酸濃度は体脂肪率、血清TG値と有意に関連しており、肥満や高TG血症の改善が、細胞膜のアラキドン酸減少を是正すると推論された。このような血中ならびに膜の不飽和脂肪酸の低値が病態に与える影響をさらに経過を観察し、積極的な運動指導などを組み合わせた体重管理を行って検討を続けたい。また次年度は糖尿病モデルラットを用いて各種脂肪酸を投与しインスリン感受性に与える影響を検討する。
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