研究概要 |
STS(科学技術社会)教育の体系的評価法を組むには,既存の教科・科目での評価観点を洗い出す作業が必要である。理科,社会,保健,環境等の教科領域,更にその下位の科目や単元での評価観点を横糸とし,また,それぞれ領域における学年進行(子どもの発達段階)を縦糸として,全人格的な子どもの成長を視野に入れた作業を避けては通れない。 この作業の中では国際比較の観点も重要である。教授・学習内容よりも評価観点に焦点を当てることで,各国固有の価値観が浮き彫りにされよう。本研究では,主にオーストラリアのSTS教育について資料を収集した。固有動物や移入動物といった背景をもつオーストラリアでは,人為的な管理が前提となっており,我が国の価値観とは根本的に異なる側面がある。 STS教育は,その性格上学年の進行とともに深さを増していく。オーストラリア(ここではヴィクトリア州)においては,高校卒業時までに養成されるべきSTS的な能力の評価をレポートにより行い,その評価観点を緻密に整備している。例えば「(遺伝技術の)基礎知識」や「調査の目的理解」,「まとめ作成の技能」といった項目が各科目に7〜9あり,それぞれについて,Very HighからVery Lowまでの5段階を文章で表現して評価している。この手引きは,学位を有した人材からなる教育委員会が提供し,個々の生徒の評価は教師にゆだねられている。 STS教育で国際人を育成することまで考慮すれば,価値観まで踏み込み,それを相対的に捉えることができる能力の養成までが求められよう。価値観の相対化は,環境教育や情報教育など最近注目を集めている内容領域のみならず,従来の心の教育にも通じる教育活動の根源的なテーマである。価値観の相対化は,このように,様々な領域から要請されつつあり,21世紀における教育活動の究極の目標となろう。
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