研究概要 |
この研究において立脚する人間観・知識観を論じ,Polanyi,M.の言う人間観および知る活動(knowing)と実存主義で考察される人間観および認識過程との間に共通する点があることを指摘した。 この理論的背景をもち,社会人あるいは大学生の四名から七名よりなるグループによる算数・数学を題材とした議論の場を設定し,議論を通して表出する調査参加者の数学的知識を記述し,解釈した。調査方法としてカウンセリングの方法である構成的グループ・エンカウンター法と非構成的グループ・エンカウンター法とを折衷して用いた。 今年度は,社会人として算数・数学を専門としない教師を選択して行った調査の結果の一部を発表し,論文とした。 主な結果は次の四つであった。第一に,数学的知識の様態として,価値観,情意および学習や授業の状況を取り出すことができ,これら三つを各々,学習者ないしは生活者としての経験からと教師としての経験からの発言と,算数・数学学習や授業と数学的知識についての発言との二方向から分類することができた。第二に,算数・数学に係る価値観として,学習者ないしは生活者としての経験から算数・数学学習や数学的知識の有用性に係る価値観が表されたものの,有用性以外の価値観は教師としての経験から表されたのみであった。第三に,算数・数学への情意については,殆とが教師としての経験から児童・生徒のもつであろう情意を学習や授業の幾つかの特徴に関係させて捉えたものであった。第四に,学習や授業の状況については,学習者ないし生活者としての経験からと教師としての経験からとの双方とも,肯定的な発言と否定的な発言との両方が表された。
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