研究概要 |
子どもたちは,原子・分子の概念を様々な自然現象に適用するのに先立ち,当該の現象を分節化して捉えることが必要になる。直面する現象をいかなる種類の現象として捉えるのかに応じて,その後の原子・分子の概念に基づく現象説明のあり方も大いに異なることになる。 そこで本研究では,はじめに,小学校理科で取り上げられる物理・化学変化の中から三態変化をはじめとする15種類の変化を取り上げ,これら変化の相互関係を小学校2年生,4年生,6年生の児童が自発的にどの程度まで構想可能であるかを個別面接方式で明らかにした。その結果,小学校低学年から高学年にかけて,関係を構想する際の注目点が,変化に関与する個々の物質の外見的特性から変化そのものへと変わることが明らかにされた。また,上述の一般的な傾向に加えて,小学校段階における個々の変化についての学習が,それら変化相互の適切な位置付けを自発的に誘導しないことも明らかにされた。 次に,上述の調査結果を踏まえ,小学校段階の理科学習のすべてを終了している中学1年生を対象とし,班を単位とした学習共同体を組織し,班内討議やクラス討議を経由しながらどの程度まで変化相互の関係付けを適切に行えるのかを理科授業の中で明らかにするように試みた。その結果,授業の中に共同的な議論の場を組織しても,個々の変化にかかわる学習成果のみを利用する限りにおいては,変化相互の適切な関係付けが不可能であることが明らかにされた。 最後に,上述の授業形式による調査結果を踏まえ,小学校6年生を対象として,理科授業の中で物理変化と化学変化を区別させるための観点を「日常的な例え」として与え,その観点に基づく変化相互の関係付けを試みさせた。その結果,物理変化と化学変化の峻別については改善が見られたが,もともと適切な関係付けが可能であった諸変化についての新たな混乱が引き起こされることが明らかにされた。 これらの本研究の結果を見る限りにおいては,理科授業で取り上げる個々の変化にかかわる適切な理解は,モデルとしての原子・分子の概念が明確に導入されない限り,きわめて困難であることが明らかにされた。
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