言語学習の場面においては、字幕を付加した条件で視聴を行ったほうが、字幕を付加しない条件で視聴するよりも、聴解を促進することが実験によって確認されている。しかし、字幕を付加した場面では、視覚情報である映像と字幕を同時に処理しなければならず、また、言語情報である音声と字幕も並行処理しなければならない。人間が一定時間内に処理できる情報には限界がある。そこで、字幕提示のタイミングを意図的にずらし、ポーズを利用することにより、同時に提示される情報量の軽減を図り、字幕の効果を高めることを考え、実験を行った。その結果、英語字幕は音声よりもポーズ分早く提示した場合、日本人学習者の英語聴解を最も促進することがわかった。このことから、英語字幕が音声と同じ発話スピードで提示された場合、日本人学習者は音声と字幕という2つの情報を処理できない可能性があること、また、ポーズの利用により英語字幕と英語音声という2つの情報の処理が容易になり、字幕の効果が高くなることが示唆された。一方、日本語字幕の場合、提示タイミングを操作しても、英語聴解に変化は現れなかった。日本語字幕は、英語字幕と異なり、音声とは異なる言語での情報の提示である。日本語字幕が英語聴解に効果的に作用するためには、学習者が視聴中に日本語字幕から内容を理解し(その情報を翻訳して)英語音声を推量または認識することが必要だと思われる。よって、英語字幕よりも字幕提示タイミングの効果が大きいと予想された。しかし、今回の実験で字幕提示タイミングによる英語聴解の変化が認められなかったことから、母国語の字幕は、英語の音声と同時に提示されても、学習者の情報処理容量を越えず、処理されることが示唆された。今後は、この実験で得られた結果を確認し、かつ、聴解の過程を考えていく上でも、視聴中の学習者の視線などについてより詳しく分析を行う必要があるだろう。
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