研究概要 |
本年度は,前年度の基礎的研究をふまえて,関連する他分野での応用可能性を探究してきた。具体的には,社会科教育が担う重要な領域である異文化間教育分野において「トレランス(寛容さ)」を育成するには,本研究の中心テーマである「公正さ(Equity)」が基盤となるという仮説を立てた。 作業を通じて,教育における「公正さ」を追究する際には,学問的成果を意味する「エクセレンス」との両立が問題となるが,かつては「エクセレンス」の追究に主眼が置かれていたのが,近年では「公正さ」に配慮しない「エクセレンス」の追究は無意味なものと解されるようになってきていることが明らかになった。さらに教育における「公正さ」の追究は,「個」に焦点を当てることで個々の生徒が一定の学問的達成をなすために必要な「アクセス」をまず保障し,それにより学習の「過程」を「個」の必要性に応じた公正なものにするねらいを有している。一方「エクセレンス」は,集団としての学問的成果すなわち「出力」の向上をねらいとしている,ということが見出せた。 多様化の進展する現代の社会における教育には,まさにこのような「個」と「集団」への配慮の仕方を重視した学習を保障することが求められている。その一翼を担う社会科教育においては,「公正さ」に対する理解を深めることが特に重要で,それは学業成果を高めることにも直結している。そうした理解にもとづく社会認識こそが,多様な価値観の関係調整が求められる現代の社会に欠き得ぬものだと言える。以上のように結論づけた。
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