社会的論争問題を扱った社会科授業を研究対象とし、授業構造の分析を通じてその授業が内包している教育内容と教育方法の特質を明らかにするのが、本研究の目的である。今年度は、教育方法の分析に重点を置き、討論を通じて子どもに判断を求める段階において、事実判断よりも価値判断を重視している授業を取り上げ、分析を行った。授業実践の分析においては、授業における価値判断を子どもによる価値観形成過程としてとらえ、「価値観形成の論理」と「価値観形成のレベル」という二つの指標をもとに、授業の類型化を行った。その結果、<構造吟味型><価値反省的吟味型><価値自主的選択型><価値集団的選択型><価値自主的追究型><価値集団的追究型>という6つの授業類型に分類できることを明らかにした。この類型化の特質は、先の「価値観形成の論理」と「価値観形成のレベル」を指標にしている点である。「価値観形成の論理」とは、社会的論争問題を扱う中で子どもが価値観をどのように形成していくかを示すものであり、社会的論争問題に対して価値判断を問われる民主主義社会における市民的資質として、最も中心的な点を示すものである。また「価値観形成のレベル」とは、価値観形成の場の違いを表すものであり、具体的には「個人レベル」「社会レベル(客観的)」「社会レベル(間主観的)」の3つに分類され、民主主義社会において最も重要な課題である個人と社会との関係を示す中心的な指標である。 以上のように、社会的論争問題を扱った授業も、その内実は多様であることを本研究では明らかにした。総合学習の時間が設定され、子どもによる追究活動がますます重要度を増す中で、単に社会的論争問題を取り上げるだけでなく、本研究で示した授業の多様な面を踏まえた授業構築が求められると考える。
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