平成12年度も、平成11年度に引き続き生体ダイナミクスについて、その力学構造に着目した特徴付け手法の開発および解析をおこなった。課題としては、1)同期現象を用いた力学構造特徴付け手法の性質の解析、2)生体信号の特徴付けにおける有効性の検証を、数値実験および生体計測をもとに行った。課題1では、カオス力学系であるレスラーモデルの結合系について、同期強度の変化を数値実験によって計算した。結果として、パラメータ空間での同期応答範囲は、結合方式に強く依存しており、特定ダイナミクスのみに強い同期特性をもつ結合系も構成可能であることがわかった。また、カオス同期を用いた情報表現の解析として、カオス結合系における同期状態の相互情報量解析も行った。課題2では、本手法を指尖容積脈波の非定常ダイナミクスの同定に適用した。ここでは、同一被験者について、安静状態、光刺激付加状態(ストレス状態)を交互に繰り返す状況下でダイナミクスの特徴付けを試みた。事前に安静時に測定・再構成したダイナミクスと、測定信号との結合系を構成し入力信号に対する同期応答の強度を計算した結果、光刺激を与えることによって結合系の同期状態が壊れる傾向がみられた。これらの課題の結果は、観測に用いている再構成したダイナミクスと観測している生体ダイナミクスとの類似度を結合系の同期・非同期を用いて定量化でぎる可能性を示している。ここでは、ダイナミクスの構造のみに着目した対象の同定を行ってきたが、ヒューマンインターフェースに応用する場合、ダイナミクスの構造の意味付けも行う必要があり、これは今後の課題の一つである。
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