本研究は、多数の高性能なパーソナル・コンピュータを1Gbpsの高速ネットワークに接続したクラスタ計算機の上に、多数のスレッドが自律的に論理ネットワークを構築しながら、クラスタ上を移動する並列プログラミング環境を実現することを目的とする。本ププログラミング環境を使って、種々のグラフ応用問題、シミュレーション等の並列化を目指している。技術的課題は、(1)スレッドの移動と論理ネットワークの構築を記述するための言語設計、(2)スレッドに割り当てられたスタックと動的メモリの移動方法の確立、および、(3)論理ネットワークのノードの静的及び動的な配置による負荷分散、の3点である。 本年度は、研究環境の整備から始め、1Gbpsの転送能力を持つMyrinetネットワークに、Pentium-II(450MHz)と128Mbyteメモリからなるパーソナル・コンピュータ8台を接続してPCクラスタを構築した。技術的課題(1)に対処するために、自律的に移動するスレッド、および、論理ネットワークを構成するノードとリンクをC++の基本オブジェクトとしてユーザに提供した。スレッドの移動、ネットワークの構築は、これらのオブジェクトのメソッド呼び出しとして実現した。計1200個のスレッドを、PCクラスタ上でランダム・ウォークさせたときの基本性能を測定し、言語の基本設計と共に、その成果をIWCC'99にて発表した。さらに、技術的課題(2)に対処するために、カリフォルニア大学で開発されたMESSENGERSモバイルエージェント・システムをPCクラスタに移植し、動的メモリの移動を実現して、我々の技法の実現可能性を証明し、PDPTA'99にて発表した。 次年度の課題は、MESSENGERSで実現した動的メモリの機能を、自律的に移動するスレッドに付加すること、さらに、技術的課題(3)に対処すると共に、応用プログラムの開発とその性能評価を行うことである。
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