本研究課題では、組込みシステム用のリアルタイムOSに、プロセッサ時間の保護機構を導入するための理論および実装技術の研究を行った。 理論面の研究として、proportional share resource allocation(PSRA)方式を拡張して、固定的なプロセッサ時間を配分されるモジュール(FSM)と、重みに比例したプロセッサ時間を配分されるモジュール(PSM)を統合してスケジューリングすることを狙ったアルゴリズムに関して研究を行い、EPDFアルゴリズムを提案するとともに、その改良アルゴリズムについて検討した。EPDFアルゴリズムについては、シミュレーションによって既存のアルゴリズムとの比較評価を行い、その有効性を検証した。また、FSMとPSMを統合してスケジューリングするためのアルゴリズムの理論的な限界についても検討を行った。 FSMとPSMを統合してスケジューリングする場合、各モジュールに無限小の単位でプロセッサ時間を割り付けるgeneralized processor sharing(GPS)が理想的なモデルとなる。EPDFアルゴリズムは、FSMが任意の時点で到着した場合にもそのデッドラインを守るために、GPSと比べて、PSMへのプロセッサ時間の配分を遅めにしている。そこで、すべてのモジュールが最大実行時間を使い切る場合には、GPSの振る舞いと一致する(厳密には、各モジュールの実行完了が、GPSの場合よりも遅くならない)という性質を持った改良アルゴリズムについて検討した。さらに、モジュールが最大実行時間を使い切らない場合には、どのようなアルゴリズムによってもGPSと一致させることができない反例を発見した。これらの検証は、将来の課題である。 また、RTOSの実装作業の前段階として、各モジュールが使用したプロセッサ時間を計測する方法に関して検討し、そのオーバーヘッドを計測・評価した。当初、本研究課題の中でプロセッサ時間の保護機構を持ったRTOSの実装作業を開始する計画であったが、理論面の課題が予想していたよりも困難なもので、実装作業の今後に持ち越すことになった。
|