研究概要 |
本研究の目的は,同じ情報を異なった様式で表示したとき,一方の表現が他方よりすぐれていると場合があるという「表現の有効性」という現象を意味論的な見地から説明するというものである。報告者が以前に行った研究で,この問題について次のことが明らかになっている。表現の構造を規定する制約によって,(1)ある情報αの表示がαから帰結する他の情報βの表示を必然的に伴なう場合があること,(2)情報αの表示がαから帰結しない他の情報の一つを必然的に伴う場合があること,(3)矛盾した情報の集合を表現できない場合があること,(4)表現される対象を規定する制約が,表現そのものの構造を規定する制約に投影される場合があること。本年度は,先に提出した研究計画に従い,表現系がもちうるこれら4つの特徴を,Barwise & Seligmanのチャンネル理論を基礎にして数学的にモデルすることを試みた。その結果,新たな知見として,チャンネル理論で提案されている「局在論理」という概念を使い,表現領域による対象領域の「制約の保存」という性質を特徴づけることができ,(1)〜(4)の性質がすべてこの性質の特別な場合として正確にモデルできることが分かった。また,(1)〜(4)以外にも,制約保存の特別な場合として,(5)表現系の基本的な意味規則から,派生的な意味規則が導かれることがあること,(6)表現のもつ制約について推論することで,表現の対象のもつ制約について推論するという「遠隔原理」が健全(sound)でありうることが分かった。「制約の保存」に基づく体系的な数学モデルは未発表であるが,(5)の結果は国際学会「IEEE Visual Languages」ですでに発表し,(6)の結果は12年8月に開かれる国際学会「Diagrams 2000」に投稿した。また,(1)〜(4)の知見をまとめた論文が学術誌Artificial Intelligence Review に掲載された。
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