研究概要 |
本研究では視覚系の神経機構に関し,主として以下の観点での知見を得た. 1.閉図形領域の検出のメカニズム 人間の視覚系は非閉曲線に比べ閉曲線を効率的に検出できること,閉曲線に対し内側の領域の感度が上昇することが報告されている.これらは,視覚系が閉曲線を境界とする固有の領域を有する物体を,背景の中から閉曲線の検出により特定していること,閉曲線によって区別される2領域のどちら側に物体が帰属するかを検出する能力が視覚系に備わっていることを示唆する.本研究ではこれらの知見に基づき,視覚系における閉図形領域検出の神経回路モデルを提案した.モデルでは,パターンの輪郭の連続的な区間における各局所領域での曲率,不連続な部分であるコーナーの角度を検出し,輪郭上でこれらの信号を加算的伝播・競合させ,輪郭に対し閉領域の存在する側を求める.そしてFilling-inのプロセスによって閉曲線の内側の領域が活性化されて閉図形領域が求まる.コンピューターシミュレーションで様々なパターンに対しモデルが正しく機能することを検証した. 2.結合錯誤現象の生じるメカニズム 複数のパターンを含む刺激を短時間提示されると,人間は実際に提示されたパターン以外にも,それらのパターンの組み合わせで構成される,刺激中に存在しないパターンも知覚される現象が報告され,結合錯誤現象と呼ばれる.本研究ではこの現象を説明する神経メカニズムを考案した.モデルは位置情報の処理系及び形情報の処理系の二つのネットワークより構成される.複数のパターンを含む刺激が提示されると,それらの位置情報が検出されると同時に,位置信号間で競合が起こる.勝者となった細胞は入力から形情報の処理系へ送られる信号をゲートする.その結果,十分な時間経過後には1つのパターンの位置情報が処理されると同時に,その形が認識される.しかしネットワークに刺激が提示された直後では位置情報での信号の競合過程が収束せず,複数の位置のパターンがまとめられて形情報の処理系に送られ,本来存在しないパターンが認識される.これらの動作をシミュレーションによって確認した. 3.眼球運動を伴うパターン認識モデル 本研究ではパターンの大きさ・位置の変化,変形を許容する認識を可能とする新たな考え方の脳内パターン情報表現方法を提案するとともに,それに基づくサッケード機構を考慮したパターン認識システムを提案した.本テーマの研究成果は現在発表投稿中である.
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