本研究では、一般的な制約を持つ多期間の投資決定問題を扱った。これは、離散時点における条件付き請求権評価問題をふくむようなクラスの問題である。これらの問題に対しては、連続モデルによる解析的な解法が存在しているが、取り引きに関する制約が無い、あるいは1資産のみの単純な制約下で適用が可能である。一方、離散モデルによる数値的な解法については、実務においても一定の成功を納めているものの、確定的等価な問題へ変換する手法は、期間数を大きくとれない欠点がある。 これらの点を克服すべく、ポートフォリオの価値を状態変数としてとる多期間モデルを構築し、分割型の解法を提案した。 解法は、以下の通りである。 1.最終期末時点のポートフォリオの価値wが与えられたもとで問題を解く。すべてのwについて最適値を得たならば、これをwの関数と見なす。 2.一時点前のポートフォリオの価値wが与えられたもとで、f(w)を目的関数として問題を解くwについてパラメトリックに解き、あらためてwと最適値の対応を関数f(w)とする。 3.この手続きを初期時点までバックワードに行うことにより、初期保有額から出発する最適戦略が得られる。 この手法においては、問題の規模は期間数に対して線形にしか増加しない。また、各期毎に独立した一般的な制約についても対応することができる。これらの特徴は、実データを用いた数値実験を通じて実際に確認することができた。 上記の方法は、各期の問題が資産価値wのみに依存している構造を利用している。したがって、それ以外の変数に依存するような構造を導入すると機能しない。これは多資産の取り引きコストを導入する際に障害となる。そこで、近似的に取り引きコストの影響を資産価値の変動に反映させるようなモデルについても考察を行った。
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