研究概要 |
今年度はまず,動画像や大規模データなどネットワークの性能に与える影響が大きいトラヒックを中心に,その特性とモデル化手法に関する調査を行った.その結果,これらのトラヒックには長時間依存性や自己相似性といったバースト性が多く観察されること,そのモデル化としては,フラクタルガウス過程やパレート・ワイブル分布などが利用される一方,解析可能性からマルコフ型のトラヒックモデルも提案・分析されていること等がわかった.一般に,長時間依存性を持つモデルよりもマルコフ型のモデルの方が定量的な性能評価に向いているため,今年度はマルコフ型のトラヒックモデルを中心に性能評価への適用を行った. 分析では,まず2ノードのマルコフ型ネットワークモデルを考え,定常状態において2つのノードにおけるセル長の同時分布がどのように減衰するかを調べた.その結果,ネットワークの安定条件の下で同時分布が幾何的に減衰すること,およびそのときの減衰率の上限を求める方法を導出した.また,得られた上限と数値計算結果を比較した結果,かなりの場合において上限が厳密な減衰率と一致することも確かめられた.ネットワークにおいては各ノードが相互に影響するため,既存の結果の多くは個別ノードの分析に限られていたが,本手法をさらに拡張することで,より一般のネットワークの解析が可能となることが期待される. また,バースト性がネットワーク性能に与える影響についても分析した.その結果,マルコフ型トラヒックモデルの中でも実用性が高いと言われるマルコフ変調ポアソン過程を入力とするモデルの中では,ポアソン過程が最も減衰率が小さく,ポアソン過程から離れるにつれて減衰率が増大することが示された.一般に,バースト性が大きいほど性能は劣化すると考えられており,これはその性質を明示的に表すものである.
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