本研究は、産業プラントの保全作業におけるヒューマン・エラー防止および作業効率向上を念頭に置き、認知人間工学的観点から保全作業について検討すること、とくに保全作業における人間の認知行動を明らかにし、認知行動モデルを導出することを目的としている。平成12年度は、平成11年度研究の成果を踏まえ、プラント保全の中でも「調整」型の技能を要する作業におけるヒューマン・ファクターについて実験的に検討した。本研究結果によれば、プラント保全における調整型技能作業は、大きく3つのステップによってなされることが判った。第1段階は人間-道具系の能力限界を超えている場合である。この状況では、作業者は人間-道具系の許容内に調整量が収まるまで、闇雲に作業を続ける。第2段階は調整量が人間-道具系の許容内にあるものの、作業者が作業完了までに心理的距離を感じている場合である。この段階では、作業者は自身の内在基準に従って作業を行い、必ずしも精緻な作業結果を導くわけではないが、ある程度は正確に、しかも一様な作業結果を導く。第3段階は作業者が作業完了までに心理的な距離をほとんど感じていない場合である。この段階では、自信の経験・知識等に基づき慎重に作業を行う。本年度は、これらの結果を基に調整型技能作業の特性を認知行動モデルとして表現した。3段階それぞれの特性を考慮し、それらに相応しい作業改善がなされることが望まれる。一方、作業の背後に存在する要因についても検討した。実験的検討では、作業者の性格が作業に大きく影響を及ぼしていることが判った。また、分析的検討では、作業の背後に存在する要因は多数あるものの、それらが構造的に関係し合っていることが判った。作業の背後要因の分析的検討結果を構造モデルとして表現した。(742字)
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