研究概要 |
防災問題に関する人文・社会科学的研究は,これまでおもに被災者の避難行動や避難所・仮説住宅などの住環境問題,あるいは災害の経済的影響評価など,比較的定量化しやすい個別的課題に限定して研究が進めらてきた.そのため、それぞれの個別的課題間の関係をシステム論的に記述することや,災害によって影響を受ける人間社会の事象を枚挙し,災害課程の全体像を把握する試みは,これまでなされてこなった.そこで本研究では,防災研究に文化人類学的視点を導入し、被災者の生活のあらゆる事項について被災者や災害対応者の対応行動の記録や資料の実証的な分析を通して,災害過程を構成する基本要素の抽出とそれぞれの基本要素間のシステム論的記述をおこなう. 本年度は,まず阪神・淡路大震災の被災者・災害対応従事者へのインタビュー調査を実施した.特に震災発生時に意思決定をする立場にあった被災者・災害対応従事者を中心に資料の収集をおこなった.収集されたインタビュー原稿は文化項目分類を用いて分析され,被災者の生活復興過程における災害関連の文化要素の抽出をおこなった.原稿はさらに編集を加えた後データベース化した.つぎに阪神・淡路震災記念協会に保管されている震災関連資料(チラシ,掲示物等)の一部をデジタル化し,文化項目分類を用いて分類をおこなった.その結果,インタビューのような震災記録とチラシ・掲示物等に代表される震災関連資料が,統一的な基準で分類可能であることが明らかになった.さらに,昨年発生したトルコ・台湾における震災事例と阪神・淡路大震災との比較から,被災地における住まいの問題を文化人類学的視点を用いて構造分析を試みた.
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