宇宙プラズマには主成分の水素イオンの外に、ヘリウムや酸素、鉄などの重イオンが含まれており、それら重イオンの加速・加熱現象が数多く観測されている。例えば、太陽フレアー時に発生する高エネルギー粒子の組成は平均的には背景のコロナの組成とほぼ等しいが、フレアーごとに変動があり、ある特定のイオン種の存在量が増加することがしばしば報告されている。そして、それら重イオンの加熱現象には、電流不安定性が関連しているものと考えられている。この重イオン加熱に関する理論的研究は、主に線形・準線形理論に基づくものであった。本研究では、不安定性の非線形発展とそれに伴う重イオン粒子の加熱機構やエネルギー輸送量等を明らかにするため、粒子シミュレーションを行なっている 本年度は、磁場に沿って流れる弱い電子電流によって不安定となるイオン音波やイオンサイクロトロン波に注目した。主成分の軽イオンと副成分の重イオンの2種類のイオンと電子からなるプラズマ中の電流不安定性について、空間2次元・3次元の静電粒子コードを用いてシミュレーションを行なった。その結果、電子の分布関数の変化によってもたらされる非線形効果が、波の成長や飽和、イオンへのエネルギー輸送において重要な役割を果たすことが明かとなってきた。特に、線形理論では重イオンの加熱がないと予測されるイオン音波が最も不安定な場合でも、シミュレーションでは重イオンの加熱が起こることが観測された。電子の分布関数の変化によって、線形理論ではほぼ安定であったイオンサイクロトロン波が大きく成長し、その波が重イオンの加熱を引き起こしている。現在、この成果を基に論文を準備中である。
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