本年度は、海水中の溶存有機物に対し、無機塩類と分離した際に生じる生化学的な特徴の変化を確認するための実験を主として行った。 1 限外ろ過法とキレート交換樹脂の組み合わせによる高分子態溶存有機物の分離 昨年検討を重ねてきた限外ろ過法による海水中の高分子溶存有機物の脱塩・濃縮回収法と、キレート交換樹脂による有機物結合態の多価無機イオンの置換・除去法の組み合わせにより、海水中の高分子溶存有機物から無機イオンとの相互作用を完全に取り除くことを試みた。その結果、限外ろ過法により分子量1kDa以上として回収された高分子画分に対し、キレート交換樹脂による処理を行ったところ、その中に含まれる分子量10kDa以上の巨大分子画分の存在割合には変化が認められなかった一方、1-10kDaの中間サイズ画分についてはその約40%が分子量1kDa以下の低分子画分に変化することが確認された。この結果は、海水中の高分子画分の中に、共有結合で構成された比較的大型の高分子化合物と、低分子のフラグメントが多価イオンの架橋によってつながって構成されている比較的中型サイズの化合物の2つのタイプが存在していることを示唆している。特に後者については、多価イオンによる架橋構造自体が微生物分解に対する抵抗性を示す大きな要因になっている可能性が考えられ、今後引き続き分解実験によってそのメカニズムの検証を行っていく予定である。 2 逆浸透ろ過法と電気透析法の組み合わせによる低分子溶存有機物の分離 海水中の低分子溶存有機物については上記の方法では完全に無機イオンと分離することが困難であるため、新たに逆浸透ろ過法と電気透析法の組み合わせによる分離法を試みた。この方法による脱塩効率は95%であったが、脱塩を行った画分と行わなかった画分に対し、海洋細菌群集による分解過程の違いを検討したところ、脱塩しなかった場合、低分子有機物の炭素濃度にはほとんど変化が見られなかったのに対し、脱塩を行った画分については1週間で約10%の減少が認められた。この結果は、低分子溶存有機物についても無機イオンとの相互作用による難分解化のメカニズムが存在することを示唆しており、今後引き続き脱塩効率をさらに上げた場合の分解性の変化について検討を行っていく方針である。
|