酸性雨と人間活動の関係を明らかにするためには、酸性雨の長期変動を既存の観測データの収集および解析によって復元することが重要である。最近、冬季の日本海沿岸地域で北西季節風により大陸から長距離輸送された大気汚染物質による酸性雨問題、すなわち、日本海側の冬季降水のpHは低く、雨や雪の非海塩性硫酸イオン濃度および沈着量が高いことが報告されている。降水の濃度や沈着量は降水量に依存しているため、降水量の変動特性を把握する必要がある。また、近年、地球温暖化や暖冬の影響により、日本海沿岸地域で降雪の量が減少しているといわれている。本研究では、冬季の日本海沿岸地域の降水量や気温、降雪の深さについて長期変動を調べ、その要因を考察した。その結果、降雪の深さは、北陸地方から山陰地方にかけて1980年代後半から急激に減少しており、月平均気温の1次関数で近似可能であることから暖冬の影響を受けていることがわかった。一方、降水量については、主に北陸地方において、12月降水量が1960年代以降徐々に減少し、1980年代後半には平年値を大幅に下回る傾向が見られた。この減少傾向は、気温の上昇やそれに伴う降雪の減少だけでは説明できず、降水量全体が減少している他の要因があることが明らかになった。さらに、日本海上で供給される蒸発量の観点から考察するため、1890〜1932年の神戸コレクションデータや1961年〜1997年の気象庁北太平洋海上気象データを収集し、12月の日本海上の海上気温、海面水温およびそれらの差の長期変動を調べ、その空間分布を示した。海上気温と海面水温の差が減少を示す地域は、海上気温が上昇する地域と一致し、対馬海流が通る領域とほぼ一致していた。この地域の北西季節風の風下は北陸地方にあたるため、日本海上の蒸発量の減少が北陸地方の12月降水量の減少傾向をもたらしていることが示唆された。
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