研究概要 |
水道原水に含まれる有機物質は異臭味、色、凝集阻害、消毒副生成物の発生、健康影響等の様々な問題を引き起こすが、それら物質の多くは、構造が多様で特定することが困難であり、起源や消長といった全体像を掴むに至っていない。本研究では、水道水源域のメインである淡水環境に注目して、炭素循環における有機物質の物理化学的性状の変化を解析し、有機物質動態の特性を把握と、適正な物質循環に基づいた水質管理に役立てることを目的とする。本年度の研究成果は、以下のようにまとめられる。第一に,異なる水環境の水質においては有機物質の分子サイズ構成に違いが認められていることを考慮し、淡水環境に存在する有機物質を、その分子サイズを指標として分類することを試みた。第二に,溶存イオンの組成を解析することより,イオン化している有機物の存在の可能性を検討した。具体的な対象としては,地上部において水質に大きな変動をもたらす森林帯に注目し,林内の降雨を分析した。まず,SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)分析による最適な条件を検討し,溶離液に水を用いて比較的安定した分析が可能であることを確認した。この条件による分析の結果,降雨→おもに葉を伝って流れる林内雨→幹を伝って流れる樹幹流下雨の流れに従ってより多くの有機物が溶解して行くこと,林分によって溶存有機物の分子量分布に特徴的な差があることが確認された。また,森林内雨水中の陽陰両イオンのバランスは大きくずれており,陰イオンの不足分とTOCの相関がかなり高いことから,水酸基やカルボキシル基等の修飾基を有する有機物が存在する可能性が示唆された。
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