研究概要 |
自然界には極めて過酷な環境下でも生存可能な生物種が存在する。これら生物種の環境適応機構、生体防御機構は基礎科学分野のみならず応用科学分野の視点からも大変興味深いものである。Rubrobacter rediotoleransは既知の放射線耐性細菌の中で最も高い耐性度を有する細菌である。生物の放射線防御機構を考えるとき、細胞内DNA修復機構は重要である。しかし、R.radiotoleransのDNA修復機構については全く研究がなされてこなかった。そこで、電離放射線によりDNA中に生成し、高い致死性を示すチミングリコールに対する修復酵素の、R.radiotoleransからの精製と酵素特性の解析を行った。まず、R.radiotoleransを大量培養し、凍結融解法により細胞粗抽出液を調整した。これを硫安沈殿により粗分画し、さらにチミングリコールを含むDNA基質に対する特異的エンドヌクレアーゼ活性を指標として、Q-Sepharose,SP-Sepharose,Phosphocellulose,Mono S クロマトグラフィーにより目的とする酵素活性を約6200倍精製した。精製酵素は、SDS-PAGE分析において分子量4万の単一バンドを示した。この酵素の基質特異性を調べた結果、チミングリコールの他、ピリミジン環分解生成物であるウレア、脱塩基部位を認識するが、ピリミジンダイマーは認識しないことが明らかとなった。また、酵素活性は、塩濃度100mM NaCl、pH7.0で至適値を示した。この酵素のDNA鎖切断機構をより詳細に検討するため、脱塩基部位及び還元型の脱塩基部位を含む基質に対する活性を調べたところ、前者では鎖切断が起こるのに対し、後者では鎖切断が起こらないことが明らかとなった。この結果は、この酵素がAPリアーゼとして作用し、その結果3'リン酸ジエステル結合のβ脱離反応が起こることを示している。
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