研究概要 |
近年、工業国沿岸を中心にイルカ・アザラシの大量死が頻発生し、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)による海洋汚染との関係が疑われている。とくに、ウイルス感染により死亡する例が多く化学物質による免疫系への影響が指摘されている。そこで本研究は、日本近海産の鯨類を対象に、1)環境ホルモンによる汚染の実態把握、2)免疫異常の高感度評価系の開発と環境試料への応用、を目的に調査研究を行いこれまでに以下の結果が得られた。 ● 汚染の現状把握 長崎大学水産学部の協力を得て、有明海産イルカの臓器組織を入手した。化学分析は汚染物質が比較的蓄積しやすい脂皮と肝臓を対象に行い、PCB_sおよび有機塩素系農薬(DDT_s,HCH_s,HCB,クロルデン化合物;CHL_s)をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により定性・定量した。 分析の結果、PCB_sが最も高濃度で検出され、(21μg/g湿量あたり 以下同様)、次いでDDT_s(7.8μg/g),CHL_s(7.0μg/g),HCH_s(0.54μg/g),HCB(410μg/g)の順であった。また、ダイオキシン様の毒性影響が懸念されるコプラナPCB_sも有意な濃度で検出された。日本の場合、PCB_sの新規製造および使用は、1970年代初頭に禁止されている。今なお環境試料から高濃度に検出されている理由として、PCB_sは脂溶性が高く分解されにくいこと、また保管・管理等の問題で現在も環境中へ流出していることが窺えた。 ● 免疫異常の高感度評価系の開発 化学汚染による免疫異常の評価系を開発するため、リンパ球の増殖活性に注目した。鯨類の血液からリンパ球を分離し、マイトゲンを添加した際の最適増殖条件の検討を行ったところ、Con A 濃度が10μg/ml,培養日数が4日のときリンパ球の増殖速度が極大を示した。得られた結果は、野生鯨種を対象に化学汚染とその影響評価を行う際の基礎データとして応用する。
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