本年度は自動車関係諸税のグリーン化が政治的課題としてクローズアップされたが、そこでは短期的施策が論じられるばかりで、より根本的な自動車関係諸税のグリーン化の方途については十分に議論されなかった。本研究では現行の自動車関係諸税を概観し、鍵となる事実関係を把握し、いかなる自動車関係諸税のグリーン化が要請されているかを明らかにした。自動車をめぐる環境問題の深刻化の特徴を自動車関係諸税と関連づけて整理するならば以下の4点に集約できる。第1に自動車燃料課税の水準が低いため、自動車の総走行距離が著しく増加した。自動車燃料需要の価格弾力性は長期的には必ずしも小さくないため、自動車燃料課税の引き上げは走行距離に影響を及ぼし得る。第2に大気汚染物質排出原単位が小さい自動車から、それが大きい自動車へのシフトが進んだ。とくに軽油引取税が安いため、ガソリン車からディーゼル車への代替が進んでいる。第3に二酸化炭素(CO2)排出原単位が小さい自動車から、それが大きい自動車へのシフトが進んだ。これにとくに大きな影響を及ぼしたのは1989年の税制改正である。第4に自動車関係諸税の大部分が道路特定財源として道路投資に用いられたのに加え、一般財源と財政投融資を用いた道路投資により自動車依存が加速された。ただし道路特定財源の一般財源化は、受益者負担の原則などから正当化は困難であり、むしろ一般財源からの道路支出のあり方の見直しが必要である。こうした状況をふまえ、汚染者負担、受益者負担という原則にできる限り忠実な形で自動車関係諸税を組み替えることが必要である。その際には自動車交通の社会的費用を計測することが必要となる。現在欧米における自動車交通の社会的費用の計測例についてサーベイを進めているが、欧米においても元データの信頼性、便益移転の適否、二重計算の排除など、手法がいまだ十分に洗練されていないことがわかってきた。
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