本研究は、スリランカ産の糖尿病向け生薬から単離されたサラシノールおよびその類緑体の化学合成を目標とする。サラシノールはこれまでに類のない特異な構造を持つ強力なグリコシダーゼ阻害剤であり、チオフラノースの環硫黄原子がアルキルスルホニウムイオンとなりアルキル側鎖末端にある硫酸基との間で分子内で塩を形成することにより、一種のスピロ環状構造を形作っている。サラシノールの合成はチオフラノース部分の合成、アルキル側鎖である糖アルコールの硫酸エステルの構築、これら二つのユニットの縮合からなり、チオフラノース部分の合成はすでに申請者らにより達成されている(H.Yuasa et al.Tetrahedron Lett.1997; 38:8367)。そこで本研究では糖アルコール硫酸エステル前駆体の構築とこの化合物のチオフラノースとの縮合を検討する。縮合は環状硫酸ジエステルの開環反応により行う計画とした。サラシノールの糖アルコール部分はエリスロトリトール骨格を持つので、グルコースの3位から6位までの骨格を用いることとした。グルコースを原料とし種々の環状硫酸エステル誘導体を合成し、テトラヒドロチオフェンとの縮合反応を試みたところ、水酸基を保護していないものあるいはベンジル基で保護したものでは反応がまるで進行しなかった。しかし、二つの水酸基をイソプロピリデン基で保護したものでは縮合反応が進行することがわかった。そこでこの縮合反応をチオフラノースに適応したところ予想通りサラシノール誘導体が得られることが判明した。イソプロピリデン基は糖アルコールの立体配座を固定することにより分子内塩の形成を促進したものと考えられる。現在脱保護の検討を行っている。さらにいくつかのモデル化合物を用いてマイクロプレートリーダによる迅速な阻害活性測定法の検討を行った。
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