研究概要 |
本研究の目的は有機化学と遺伝子工学を巧みに組み合わせることにより、分子の多様性と自己増殖能の両者を兼ね備えた、今までにはない新しい分子集団を構築し、その機能性を探索することである。平成11年度はDNAポリメラーゼの本来基質であるdCTP(デオキシシチジン3リン酸),dTTP(デオキシチミン3リン酸)の塩基部分に種々の糖鎖、アミノ酸を化学的に修飾した化合物を合成した。Heck反応を用いて、dCTP,dTTPの5'位に置換基を導入した。 これらの合成した新しい基質が、Klenow FragmentによってDNA鎖内に取り込まれることをアクリルアミド電気泳動法により確認した。両端にPCR増幅(耐熱性のDNAポリメラーゼ、dATP,dCTP,dGTP,dTTP,プライマーというものを加えて反応することにより、1分子のDNAを何百万倍にも増幅させる事ができる)のための20mer程度のプライマーを有する全長90mer程度の化学合成DNAを用意した。この化学合成DNAを鋳型とし、プライマー、化学合成した新しい基質、DNAポリメラーゼを加えて、DNAの伸長反応を行なった結果、目的通り、合成した新しい基質がDNA内に取り込まれていることをゲル電気泳動解析より、確認した。これらの非天然ヌクレオチドのKlenow Fragmentによる導入効率は天然のものとくらべて30-50%を維持していた。 この手法の特徴は、テンプレートを設計することにより、任意の官能基がオングストロームオーダーで並んだ超分子化合物を簡便に合成できることである。例えばグルコース修飾dUTPを用い、Aが5個連続したテンプレートとを用いて、グルコース残基がらせん構造に沿った構造のDNAが、またAが5個おきに並んだテンプレートを用いると、グルコース残基が左右交互に並んだDNAを合成できた。このように糖鎖がクラスター化した分子は、細胞表面の糖鎖のレセプターと高い親和性を有すると考えられる。
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