本研究課題では、高次らせん構造におけるヘリシティ発生の機構を明らかにするために、中心性不斉の導入によるらせん分子二量体のホモヘリシティ制御について検討した。平成11年度は、二つのらせん部位が放射状に配置された非環状テトラピロール亜鉛錯体(亜鉛ビリンジオン)の二量体とアミノ酸エステルとの錯形成において、らせん部位間の距離が短いほどホモヘリシティ誘起の効率が高くなることを見出した。平成12年度は、らせん部位間の配向に着目して、二つの亜鉛ビリンジオンが互いに平行に配置された一連の二量体を新規合成し、アミノ酸エステルとの錯形成によるホモヘリシティ誘起について検討した。これら二量体においては、らせん部位間が極端に近くなるに従ってホモヘリシティ誘起効率が低下したことから、ホモヘリシティ誘起に関わる構造的要因として、らせん部位間の距離だけでなく配向も重要であることがわかった。さらに、効率的なホモヘリシティ誘起に必須ならせんユニット間の協同的相互作用を明らかにするために、X線構造解析およびホモヘリカル構造の安定性における溶媒効果から検討した。X線構造解析の結果から、オルトーキシリレン基をスペーサーとするビリンジオン二量体は二巻きのらせん構造を有しており、二つのらせん部位がファンデアワールス相互作用を介してスタッキングしていることが示唆された。ヘテロヘリカル構造からホモヘリカル構造への異性化の自由エネルギー変化は、溶媒分子の分極率が小さくなるに従って、負に大きくなることが認められたことから、ホモヘリシティ体の安定化には、疎溶媒的にらせんユニット間に働く協同的なファンデアワールス相互作用が重要であることがわかった。
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