研究概要 |
翻訳開始因子の一つであるeIF4E蛋白質はmRNAの5'末端に付加されたキャップ構造(m^7GpppN,Nは任意の塩基)を認識して結合し,mRNAをリボゾーム4OSサブユニットに結合させる過程で不可欠な働きをする。mRNAの塩基とeIF4E蛋白質の間の相互作用をNMRを用いて調べるためにはキャップ構造を持つ^<15>N,^<13>C安定同位体標識されたRNAが必要である。我は、化学合成とプライマーゼを用いた酵素合成を組み合わせ、キャップ構造(m^7GpppA)を持つ安定同位体標識されたRNAの効果的な合成法をした。 キャップ構造(m^7GpppA)は化学的に合成した。異なる金属によって個々に活性化される二つのリン酸付加反応部位を持つ反応試薬(Oー8-(5-chloroquinoly1)S-phenyl phosphate)を用いて、m^7G^5PとA^5pを付加したリン酸でつなぎ5',5'三リン酸橋を形成させた。次に、このキャップ構造アナログ(m^7GpppA)に酵素合成によって塩基を付加した。我々が用いたbacteriophage T7 gene4 primaseはキャップ構造アナログを普通のリボヌクレオチドと同様の効率で取り込むことが出来る。また、合成する一番目の塩基としてアデニンに高い選択性があるため、m^7Gの3'に塩基が付加される反応が起こらず、効率的に目的のRNAを合成する。 我々はこの方法を用いてm^7Gppp^<13C,15N>ACCとm^7GpppA^<13C,15N>C^<13C,15N>Cを合成し、eIF4E蛋白質との相互作用を解析した。eIF4E蛋白質とアデノシンに化学シフトの変化とシグナル線幅の広がりが観測されたが、はっきりとした分子間のNOEは観測されなかった。eIF4E蛋白質のリン酸化や他の翻訳開始因子(eIF4G)とeIF4E蛋白質の結合がmRNAとの結合を強くするという報告があるので、それらを構造生物学を用いて研究することが今後の課題である。
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