白血球上に存在するP-セレクチンリガンドであるPSGL-1は、0-結合型糖鎖を豊富に含む細胞外領域、膜貫通領域、および細胞内領域とからなっている。69アミノ酸から構成されている細胞内領域には、これまでに知られているような細胞内シグナルに関わる、いかなるモチーフも見い出されておらず、どのようにしてこの分子がP-セレクチンとの結合によって、白血球内にシグナルを伝えるのかは未だ明らかではない。本研究では、平成11年度に酵母を用いた2-ハイブリッドクローニングと呼ばれる方法を利用して、直接、目的蛋白質の遺伝子断片を既にクローン化した。1次スクリーニング、2次スクリーニングの結果、最終的に、PSGL-1の細胞内領域に結合すると考えられるタンパク質をコードする遺伝子を1クローン得た。得られたクローン化遺伝子(PSGL-AP1)のDNA配列を決定した。このクローンは330塩基対を有し、そのORFは70アミノ酸しか含んでおらず、遺伝子の部分断片であると予想された。そこで平成12年度、得られた遺伝子断片のORFのアミノ酸配列を基にして遺伝子データベースを検索した結果、PSGL-AP1がコードするアミノ酸配列と相同性のあるヒト遺伝子が見つかった。これは、ヒトの造血幹細胞と呼ばれる多能性分化能を有する前駆細胞からの各血球系細胞への分化に重要な働きをしているタンパク質リン酸化酵素遺伝子であった。今回得られたPSGL-AP1遺伝子のアミノ酸配列は、このリン酸化酵素のC末端70アミノ酸と80%程度の相同性を有していた。PSGL-1ノックアウトマウスでは、血球分化に以上が観察される事から、PSGL-AP1は、PSGL-1を介した細胞内情報伝達系の新たな機能を明らかにする上での重要な分子である可能性が示唆された。2-ハイブリッドクローニングで得られたクローン化遺伝子断片から5'-RACE(Rapid Amplification of cDNA End)法により目的遺伝子(PSGL-AP1)の全長cDNAをクローン化した。クローン化された遺伝子は全長約1.7kbpであり、DNA配列解析の結果、ユニークな配列を含む完全長の新規遺伝子であることが明らかとなった。
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