本研究は、娘核に大小を生じ(large and small daughter)分厚い隔壁を形成したまま致死となる分裂酵母の温度感受性脂肪酸合成酵素突然変異株lsd1に生じる生化学的変化と、その表現型の発現や細胞分裂に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。 1.脂質に関する解析:致死条件である制限温度でlsd1株を培養した場合、新規リン脂質2種(lsdPC、lsdPEと命名)が生成、蓄積することを見出し、これらの構造を質量分析を中心とする機器分析で明らかにした。その結果、これらは炭素数30という極長鎖脂肪酸を含有するホスファチジルコリンと、ホスファチジルエタノールアミンであった。一方、lsd1株の脂肪酸合成酵素遺伝子の塩基配列は、1個所のポイントミューテーションを有していたが酵素活性は保たれていた。そこで変異型の酵素が極長鎖脂肪酸を合成するという作業仮説に基づきさまざまな検討を行ったが、これを裏付ける確証は得られずこの点に関しては今後の検討課題である。 2.タンパクに関する解析:lsd1株を制限温度で培養すると、分子量90kDaの新規タンパク(lsd p90)が新たに発現、蓄積することを見出した。本タンパクの強制発現と遺伝子破壊を行ったが、生存率、表現型の発現、極長鎖脂肪酸含有リン脂質の生成への影響は見られなかった。本タンパクのリコンビナントタンパクを抗原として作製した抗体で細胞内局在を検討したところ、細胞質にドット状に分布した。またlsd p90と同時に分子量43kDaの新規タンパクと58kDaのカタラーゼの発現も亢進していることがわかった。これら3種のタンパクの機能と発現誘導の機構についても今後の検討課題である。 3.当初目的以外の成果:生理活性脂質であるリゾリン脂質を一度に解析できる分析系を確立した。
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