高度好熱菌内で常温菌の3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(IPMDH)を耐熱化する実験系を酵母IPMDHに適用したところ、培養温度を5段階上昇することによって、5つの変異を得ることに成功していた。それらは、選択温度を上げるごとに変異を一つずつ蓄積していた。そこで、昨年度に構築した酵母IPMDHの高発現系と精製法を用いて、各変異酵素を精製し、耐熱性と活性を調べた。その結果、変異が蓄積するごとに耐熱性が上昇することがわかった。また、耐熱性上昇の程度が大きい段階と小さな段階があった。一方、各酵素の速度論パラメータを求めたところ、各変異酵素のkcat値は、野生型酵母IPMDHと大差がなかったが、基質や補酵素に対するKm値は、どちらも野生型酵素の値よりも大きくなる傾向があった。特に活性の低下が大きくなる段階と耐熱性が大きく上昇する段階が一致しており、耐熱性上昇が常温での活性の低下を導くという考えを支持する。しかし、耐熱性が上昇しても活性の低下が起きない場合もあり、上の考えは必ずしも一般化できないといえる。現在、これらの諸性質を構造に基づいて考察するために結晶化条件の検討を行っている。 また、同じ実験系を大腸菌IPMDHに適用したところ、337番のグリシン残基がトリプトファン、またはアルギニンに置換された変異酵素を得ていた。この部位を置換することによって大腸菌IPMDHを耐熱化できるという仮設をたて、337番残基を20種類すべてのアミノ酸に置換した変異酵素を部位特異的変異法により作製した。その結果、上の二つの変異酵素も含めて、耐熱性が大きく上昇した酵素はなかったが、耐熱性が大きく低下した酵素もなかった。この部位は分子表面にあるループ中にあり、アミノ酸置換の対する許容度が比較的大きいと思われる。
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