これまでに高度好熱菌を用いて3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(IPMDH)を進化分子工学的に耐熱化する実験系を開発してきた。その実験系を用いて大腸菌IPMDHの耐熱化を試みたところ、S106I、S106I+G337W、S106I+A222Eなどの変異が得られていた。このような進化的手法と蛋白質工学的手法を組み合わせることによって、これらの変異の役割を以下のように調べ、蛋白質の安定化に関する知見を得た。 (1)G337W変異酵素とランダム変異酵素の解析 S106I+G337Wの二重変異酵素は、S106Iの単独変異酵素よりも耐熱性が高かった。また、G337W単独の変異酵素は大腸菌野生型酵素より耐熱化していたが、その程度はS106I変異が存在する場合よりも小さかった。 次にG337部位の20種類全てのアミノ酸に置換した変異酵素を作製し、耐熱性を調べた。その結果、耐熱性は野生型酵素と同程度か、或いは上昇・低下した場合でも、その差はわずかだった。G337部位は分子表面のループ中にあるが、このような位置にあるグリシンは、別のアミノ酸に置換することによって耐熱化すると思われている。しかし、その様な場合でも耐熱化するとは限らず、また耐熱化する場合でもその程度は小さい場合があることがわかった。 (2)A222E変異酵素の解析 A222E変異酵素の耐熱性は、野生型酵素よりもやや低下したが、S106I酵素と比べてS106I+A222E変異酵素の方が耐熱性が高かった。したがって、A222E変異の耐熱化効果は、S106Iがある場合に見られることがわかった。 S106、G337およびA222部位は、互いに立体構造上数十Å離れており、人為的設計は難しい。今後調べるべき新たな課題は、立体構造上離れた部位が安定性に影響を及ぼしあうメカニズムを調べることである。
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